ポケットに葉っぱを入れて二人は家に向かって歩き出します。
木々の向こうに見える離れの小屋で、父さんが頬杖をついてのんびりとしている姿が見えました。
お上さんとの話はもう終わったのでしょう。
父さんはルルカに気がついているのか、気がついていないのか、遠目にはわかりません。
「リタリ、また後でね!」と手を振って、父さんのいる所までルルカは思い切り走りよると、その大きな腕を広げた父さんがルルカを抱きかかえて肩車をしました。
温めなおしたスープ、皿に装われたシチューをこぼさないようにルルカはテーブルに運びます。
「ルルカ、森で何をしてきたんだい?」と、父さんが聞きました。
「秘密!」と元気良くルルカは答えると、空腹を満たすために木のスプーンを握ってフーフー冷ましながらパンの上にかけてかぶりつきました。
スカートの中には五枚の赤い葉がかさりと音を立てます。
「しばらくこの町に留まる。嵐が最近峠に激しいらしい。何隊かのキャラバンが峠越えに失敗したらしい。俺達は次の商隊がやってくるまでここに留まって、連中がきたらここを離れる」父さんのこの言葉はつまり、何ヶ月かかるかわからないという意味でした。
父さんとお上さんが話していたのは、女の子連れで冬の峠を越えるのは厳しいから、次のキャラバンが通るのを待つか、春までこの地に留まるかという話でした。
いくら旅慣れた旅人や商人も、あの山の峠は難所で知られているので、単独で越えようとする人はいません。
その春を待つまでの間、父さんは馬屋の馬を借りて行商にいって、この村の特産品の宣伝をして歩くのです。
「ルルカは学校に行くんだよ」と、父さんが言いました。
ルルカは物心ついたころから父さんと旅をしているので、学校というものに行ったことがありませんでした。
リタリはルルカと同じ学校に通うことになって一番喜びました。
だって、それまでリタリと同じ年頃の女の子が学校にいませんでしたから、二人はずっと今まで友達だったかのように仲良く手を繋いで学校に登校しました。
お上さんが客間をルルカの部屋として使うように準備してくれました。
父さんは仕事のために昨日の晩にはもう町を離れて、今頃はどこかで野宿でもしているのかもしれません。
ルルカは寂しくなると、フルートを取り出しては、森の切り株の所で夜空を見つめながらフルートを吹きました。
くるりくるりとスカートが舞います。
学校に通うために、お上さんがリタリのスカートと似た色の布地を選んで、制服用のスカートを縫ってくれました。
まだ仮縫いですが、ルルカはじっとしているのが耐え切れなくなって、さっそく試しに履いてみました。
鏡の向こうに地味な制服を着た自分が映っていました。
ルルカは何度も鏡と睨めっこしてから、笑ったり、怒った顔をしたり、頬を膨らましてから、すっかり飽きてしまうと、窓の外の風景を眺めて、同じ空の下にいる父さんのことを思いました。
お互い、そっくりなお揃いの服を着て、リタリがルルカの手を握って学校までの道を歩き出しました
ルルカの通うことになる学校は、リタリの家から歩いて一時間ほどかかります。
《アルト・ノイーシェ・ヴィレッジ》で唯一の学校は山の麓の入り口にありました。
道沿いに流れるソイユ河を下ると《ノイーシュ・ヴィレー》という大きな町があります。
リタリが黙り込みがちになるルルカに話しかけながら、ルルカは元気がなく相槌と生返事を返します。
俯き加減のルルカにリタリはどう声を掛けていいのかわかりません。
リタリはルルカの笑った顔しか知りません。
どうしたら笑顔にすることができるのだろうかと、その細い眉毛に皺を寄せて考え込みました。
そのとき、ヤッホーという掛け声が後ろから聞こえてきました。
先頭を歩く二人の少女を見て、一人の少年が足早に、次第に駆け足になって追いかけてきました。
まだ雪の浅く積もった地面に面々と足跡が続いています。
「ルルカ! 走って」と、何のことやらわからないまま、ルルカはリタリに急かされて隣を走ります。
それにあの男の子は誰なのでしょう? リタリの知り合いなことは間違いありません、同じ紺色の制服を着ているし、年も近いようです。
「まぁてー…」と、次第に背に遠くから声が聞こえるだけになりました。
「嘘つきフォーカーよ。あの子と歩いてると、あたし達まで仲間だと思われちゃう」と、リタリは何かを思い出したようにくすくす笑い出しました。
白い息を散らして男の子が追いつきました。
ぜえぜえはあはあととても苦しそうです。
リタリはつまらなそうに腕を組んで溜息をつきました。
ルルカは楽になるようにフォーカー君の背中を擦ってやりました。
息も落ち着いて、顔に元気が戻ると、フォーカー君は鞄の中から布に包まれた一羽の雛を取り出して見せました。
弱弱しく手の中で動くその雛は、つぶらな瞳でルルカはすっかり心を奪われてしまいました。
「これどうしたの?」と、リタリがフォーカー君に聞きます。
「巣から落ちてたんだ。まだ飛べないし、ほら怪我もここにしてるだろ。先生に診てもらうんだ」
「この子助かる?」とルルカは尋ねます。
ルルカを見て怪訝そうな顔をしてから、フォーカー君は「ああ、助かるぜ。俺が拾ったんだからな」と胸を張って言いました。